VTuberアズマリム、室戸市PR動画の契約トラブルで制作会社を提訴 一方的な終了通知と精算案に反発

高知県室戸市のPR動画制作をめぐり制作会社と契約トラブルになっていたVTuberの「アズマリム」(登録者数25万人)が6月7日、制作会社と同社代表取締役を相手取り、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したことを自身のnoteで報告しました。提訴自体は先月に行われていたといいます。

これまでの経緯

本件は、高知県室戸市が発注した「令和7年度室戸市PR動画作成業務」をめぐるものです。同事業は公募型プロポーザル方式の行政案件で、旅・ツーリング系インフルエンサーを起用し、その本人のSNS媒体やチャンネルを通じて室戸市の観光PRを行うことが中核とされていました。

アズマリムは2025年12月頃、制作会社から本件への協力を打診され、企画が室戸市に採択された後、出演にとどまらず企画構成への協力、オリジナル衣装の制作調整、現地撮影、撮影素材の確保、編集作業、配信準備、レンタルバイク費用の立て替えなど、実務の大部分を担ったとしています。

ところが2026年2月の現地撮影では、当初説明されていた制作体制とは状況が異なっていました。アズマリムによると、プロのカメラマンを含む4名体制の予定が実際には自身を含む2名のみで、私物のiPhoneやGoProで深夜帯まで撮影の相当部分を担当。レンタルバイクも未手配で、現地で費用を立て替えざるを得なかったといいます。

撮影後、業務範囲や負担が想定より拡大したこと、自身のチャンネルで配信する案件の性質から権利関係の整理が必要なことを理由に、アズマリムは契約書の提示を求めました。2月25日に提示された契約書案には、それまでメール上で合意していた内容が反映されておらず、権利関係が未整理のまま無償・無期限・撤回不能と読める利用条件や、本人に過大な第三者権利処理責任を負わせる内容などが含まれていたとしています。

代理人弁護士に相談したアズマリムは3月2日、契約条件が確定するまで作業を停止する旨を通知。これは制作の放棄ではなく、後日の紛争を避けるための対応だったと説明しています。

一方的な終了通知と「約1割」の精算案

3月3日には、仕様書にも契約書案にも明示されていなかった「指定ロケ地をすべて網羅する必要がある」との条件が突然示されたといいます。アズマリム側の代理人弁護士は制作会社に対し、室戸市との契約書の共有、あるいは室戸市を交えた協議の実施を求めましたが、契約内容の開示は拒まれ、予定されていた協議も当日に室戸市担当者が参加できなくなったとして実施されませんでした。

そして3月12日、制作会社の代理人から「委託契約は締結せず、この案件は終了とさせていただきます。この点は、室戸市も交えて協議を行った結果です」との一方的な終了通知が届きました。同時に提示された精算案は実費のほか「ここまでの作業に関する対価」として一定額を支払うとするものでしたが、アズマリムによれば当初協議されていた業務全体の対価水準と比較して約1割程度にとどまる内容だったといいます。

アズマリムは「契約書が締結されていないことは、私が本件業務を実施したことや、対価や実費が発生していたことが存在していなかったことを意味するものではありません」とし、本来であれば制作会社側が業務内容や対価、権利関係などの取引条件を適切に明示・整理すべき立場にあったと指摘しています。

公文書開示請求は「不受理」、納品動画への懸念も

アズマリムによると、制作会社はその後、当初仕様書とは本質的に異なる、本人の出演や本人チャンネルでの発信を含まない形でPR動画制作を進め、室戸市に納品したとのことです。

アズマリム側は室戸市に対し、事実関係や仕様書との整合性、納品物、変更契約の有無などの確認を求めるとともに、代理人弁護士を通じて公文書開示請求を行いました。しかし4月、室戸市情報公開条例上の請求権者該当性を満たさないとの理由で不受理となっています。

また、制作会社が室戸市に納品したとされる動画について、アズマリムは自身が現地撮影で使用した青いバイクと特徴が同じバイクが映り込んでいるとの説明を受けたとし、自身が関与した素材が納品物に含まれている可能性が否定できないと述べています。同PR動画は納品後も一般に公開されていない状況だといいます。

「フリーランスの被害を防ぐためにも公表」

こうした経緯を踏まえ、アズマリムは2026年5月、同社とその代表取締役を被告として、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したとのこと。

アズマリムは本件について「撮影・制作業務が終盤まで進行していたにもかかわらず、契約条件や権利関係が整理されないまま一方的に切り離され、適正な対価や実費の支払いがなされていない事案」との認識を示しています。終了通知後も制作会社側からは十分な支払意思が示されず、むしろ代理人を通じて公表内容の削除を求める連絡がなされているとも明かしました。

そのうえで、本件は映像・PR制作の現場でフリーランスのクリエイターが発注者側との情報格差や交渉力の差がある中、契約書や支払条件が曖昧なまま稼働を求められ、後に一方的に切り離されるという問題を含むとし、「同じような立場のフリーランスが同様の被害を受けることを防ぐためにも、本件については提訴の事実を公表することにしました」とつづっています。

今後の対応は代理人弁護士に一任しているとのことで、訴訟手続への影響を踏まえ、一定の結論や大きな動きが生じない限り個別の進捗についての詳細な報告は控えるとしています。

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